東京高等裁判所 昭和30年(う)2324号 判決
被告人 広田俊雄 外一名
〔抄 録〕
論旨同第二点について。
有毒飲食物等取締令は昭和二十年勅令第五百四十二号に基き連合国最高司令官の指令を履行するために制定されたものであること及び昭和二十七年法律第百二十号第三条第一号において有毒飲食物等取締令は日本国との平和条約の最初の効力発生の日以後も法律としての効力を有する旨を規定したことは所論の通りである。論旨は先ず右昭和二十七年法律第百二十号は最高司令官の指令をそのまま日本の国内法としたもので、かかることは国会自身が、国会が唯一の立法機関であることの権威を忘却し、憲法第四十一条に違反した立法で憲法第九十八条により無効であると主張する。しかし右法律はその内容を新たに規定する代りに従前の同令に法律としての効力を附与したもので、実質は従前の同令と同一事項を新たに規定したのと何等変らないのであつて、その制定手続において何等の瑕疵がないのである。次に論旨は有毒飲食物等取締令第一条違反の罰則は刑法上の業務上過失致死傷罪の刑に比し甚だ重く刑の不均衡これに比するものはない。このような不均衡が生ずる所以は最高司令官の指令に、そのまま日本の国内法としての効力を附与したためである。かかる結果が発生することも国会が唯一の立法機関であることの権威を忘却したためであつて憲法に違反し無効であると主張する。しかしメタノール含有物を飲食すれば人体に中毒作用を及ぼす危険があり、その害毒を生ずる可能性の広汎且つ重大なる点において個々の業務上過失致死傷の場合とは比較にならないのであるから、有毒飲食物等取締令はこれを取締るため重い刑罰を規定したのであつて、これに国会が法律としての効力を附与したことを以て憲法に違反するものということはできない。これを要するに昭和二十七年法律第百二十号は憲法に違反せず、従つて有毒飲食物等取締令は日本国との平和条約の最初の効力発生の日以後も法律としての効力を有するものであるから論旨は理由がない。